7月からスタートした【青森県十和田市】特集。同月には、移住者から見た十和田の魅力を語るイベント「十和田市移住フォーラム」が十和田市の市民交流プラザ「トワーレ」で開催されました。
移住者同士、移住者と参加者のつながりを育むことを目的に、移住者の「暮らし」をテーマにしたトークセッション、交流会を実施。
取材にご協力いただいた創作ユニット「字と図」デザイナー・吉田進さん、NPO法人奥入瀬自然観光資源研究会ガイド・玉川えみ那さん、株式会社Queen&Co.取締役のアレックス・ピーター・クイーンさん、そして「灯台もと暮らし」編集長の伊佐知美が登壇しました。
吉田 進/創作ユニット「字と図」 デザイナー
グラフィックデザイナー。1976年生まれ。
多摩美術大学在学中からデザイン会社に勤務し、フリーランスを経て起業。妻の第二子妊娠・出産を機に2013年、十和田市移住。夫婦で創作ユニット「字と図」としてデザインを軸にイベントプロデュースなどにも活動の幅を広げている。
玉川 えみ那/NPO法人奥入瀬自然観光資源研究会 事務局・ガイド
1985年生まれ。十和田市出身。大学進学と同時に上京するが、故郷の自然の素晴らしさを再認識し、「このよさを伝えたい!」という想いで2012年に帰郷。現在はNPO法人奥入瀬自然観光資源研究会(通称・おいけん)に所属し、「苔」などの小さな自然を通して、奥入瀬本来の価値・魅力や、新たな奥入瀬の楽しみ方を発信している。
アレックス・ピーター・クイーン/株式会社Queen&Co. 取締役
青年期に青森県内でホームステイし、方言が話せるほど日本語が堪能な日英バイリンガル。十和田市街地の商店街に事務所を設立。地域の人々の交流の場になってほしいという想いのもと、事務所の一部をオープンスペースとして開放し「14-54」をオープン。また、十和田市現代美術館主催の外国人旅行客の視点を捉えた観光ボランティアセミナーなどの講師も務める。
1)移住のきっかけ 2)移住後の働き方 3)子どもの未来のためにやるべきこと、に焦点を当てレポートします。十和田市の魅力はもちろん存分に語られましたが、「働き方」や「地域の未来」についても、各人の視点から、非常に本音で語られています。これからの暮らしを考える“糧”としてみてください。
では、トークセッションに入っていきましょう!
Uターンした「きっかけ」はなんですか?
伊佐知美(以下、伊佐) みなさんの十和田の好きなところを聞いていきたいなと思うんですが、えみ那さん、Uターンしたきっかけを教えていただけますか?
玉川えみ那(以下、玉川) はい。家族が奥入瀬で事業を起こしまして。そのとき私は東京や神奈川にいたので、地元で自分の身内が奥入瀬で事業を起こしたって聞いてすごくびっくりして。どうしたんだろうと思いながら、それをきっかけにここに帰ってくるようになりました。
玉川 十和田に住んでいた頃は、奥入瀬渓流なんてただの観光地だし、(くねくね道を車で走るので)車酔いする嫌なところなんだろうなというイメージしかなかったので、ほとんど行ったこともなかったんです。
玉川 アウトドア会社をやるにあたって、十和田湖や奥入瀬渓流でガイドをやるために移住されてきたネイチャーガイドさんたちに「縄文の時代から続く奥入瀬の自然は、ここにしかない生態系、歴史、物語がある。だから魅力と価値があるんだ」と聞いて、すごく感動して。いつか自分も帰ってきてその魅力を誰かに伝えられたらいいなと思うようになりました。
伊佐 十和田に帰ってこようと思った一番のきっかけは、自分がもともとは魅力を感じていなかった十和田湖だとか奥入瀬渓流にもう一度惚れ直した、みたいな。
玉川 そうですね。それまでは生態系の豊かさや美しさ、連綿と続く歴史とその物語に気づけなかったんです。意識するようになって、見えるようになったらその価値に気づいて。今日も午前中に行ってきたんですよ、奥入瀬に(笑)。十和田はそれができるんです。
たった30分であれだけの自然に触れられる。峠越えなし、舗装道路で街から30分のアクセスのいい場所にある。どれだけのいい森なのか、言葉では語りきれないんですけどね……。
玉川 ここにずっと住んでいると「ただの観光地でしょ」「なんで迷わないのにガイドつけなきゃいけないの?」とか、「十和田湖でカヌーに乗るのになんで高いお金を払わなきゃいけないの?」みたいに思ってしまうけど、でも全然そうじゃなくて。どこにもない唯一無二の場所なんだっていうことに気づいた時に、十和田に帰ってこなきゃと思いました。
伊佐 十和田湖と奥入瀬渓流はほんとうに気持ちがいいですよね。アレックスさんも……
アレックス・ピーター・クイーン(以下、アレックス) 先日、玉川さん夫婦といっしょに早朝カヌーを経験してきました。すごく清々しい気持ちで。
伊佐 (会場に向かって)やったことがある方はいますか? 早朝の十和田湖カヌー、すごく綺麗みたいですね。えみ那さんのお父さんがアウトドアの会社を立ち上げたきっかけも、早朝カヌーだったんですよね?
玉川 そうですね(笑)。もともとアウトドア好きの父が、宇樽部キャンプ場というところでキャンプをしていて。キャンプ仲間と早朝にカヌーを漕ぎ出したらしいんですよ。それでその風景に感動して、この魅力を広めようと思ったらしいです。
伊佐 今日はとてもきちんとしたえみ那さんだけど、森の中にいるときのえみ那さんは別人かと思うくらい元気でしたね。
玉川 元気? 私が雨に濡れて生き生きしてたんだと思います。
伊佐 苔たちと同じように。
玉川 街にいるより、やっぱり(笑)。あと登壇者のなかで私だけが移住者じゃなく十和田市で生まれ育って、9年間東京に出て帰ってきたUターン組です。
伊佐 そうですね、移住者という区別で分けるとえみ那さんはいわゆるUターン組で、アレックスさんと吉田さんがIターン組になります。
移住した先で、地域の仕事をどう掴んでいくのか
── アレックスさんはこちらに来てどんなふうに仕事をしているんですか?
アレックス 仕事は何をやってるんですか?ってよく聞かれるんですけど、もとは東京の慶應義塾大学に勤めていました。いまも一緒に仕事をしているマイケルも慶応の病院の方に勤めていて、二人は違う地区にいたんです。違う地区にいながらも一緒に仕事しなきゃいけない。だからクラウド上で情報を共有できるツールを開発して、そのツールを通じて仕事をしていました。
伊佐 インターネットでパソコンを使って、ということですよね。
アレックス そうです、同じ部屋にいなくても一緒に仕事ができる。それと、新しい試みとして東京の取引先の仕事を青森県でやったら面白いんじゃないかということで、今は「14-54」という拠点を持って皆さんに来てもらえるスペースを運営しながら、遠隔で簡単なシステムをつくったり、翻訳をやったりと、ウェブを通じて仕事をしています。10年、20年先はそういう仕事が多くなってくると思います。月の2/3は十和田で1/3は東京で働くスタイルです。
── そういう遠隔でできる仕事のスキルをもっていなくても移住するには、どうすればいいんですか?
吉田 僕自身はずっと東京で18年くらいデザインの仕事をやってたんですね。こっちに来た時に「吉田くんがやるようなデザインの仕事はないよ」って言われたんです。じゃあデザインは置いといて、自分で何ができるか? 挑戦したいことはないか? と考えたときに、日本酒をつくりたいと思ったんです。それで杜氏の方を紹介してもらって、十和田市の酒蔵で修行することになりました。
ド素人ですよ、何もやったことないのにやりたくなって冬場は日本酒造りをやったんです。だけど両方やってみたらだんだんデザインの仕事の方が増えてきてしまって、だったらデザインをやったほうがいいなと思いました。酒造りの世界にはプロフェッショナルがいっぱいいて、そういうひとたちにお任せするべきだなと思ったんです。だから最初は仕事がなくてもいい。地域に入る理由は何でもいい気がします。
吉田 僕がこちらに来て最初に携わったのが、和酒女子っていうグループのお仕事でした。和酒女子の「和」は、日本酒の和と十和田の和をかけてるので、十和田と日本酒が好きな女性たち。去年、そのひとたちが新しいお酒の商品をつくるっていうことでご依頼を受け、これを提案したんですね。そしたら海外の「iF design award 2017」でめでたく受賞することができました。
伊佐 移住してその土地の仕事をしていくっていうのは、移住者の一つの理想の形な気はするんですが、それをどう掴んでいくのかというのは私もすごく興味があります。
吉田 それはですね、移住してすぐに美術館のイベントをボランティアでお手伝いしたことがあったんですね。そのときに美術館の方々に“自分はこういう者です”って自己紹介しまして。そうしたらぜひお仕事一緒にしましょう!という感じになりました。
伊佐 みなさん、思い切りがいいですよね。東京での暮らし、仕事、人間関係もあった中でこちらに来られて。
玉川 そうですね。(吉田さんとアレックスさんの)二人ともそれぞれ得意分野があって、それを職にしているじゃないですか。どうせそういうひとたちしか帰ってこれないんでしょ……って思うひともいると思うんです、実際に。
私はいま結婚しているんですが、夫がまさにIターン移住者です。長野県出身でこっちに来て、普通に面接を受けて就職して。面接の時に南部弁がわからなかったらしくて、通訳が入ったんですよ。
会場 (笑)
玉川 実際に知らない土地で就職して、今はちゃんと生活をしているひともいます。
子どもたちの「知る」機会をつくりたい
伊佐 ありがとうございます。みなさんは十和田を好きになることがあって、ご自身の仕事をつくられて今ここにいらっしゃると思うんですけど。「これからこんな街になっていったらいいな」っていう街の話だとか、「自分はこんなことをしていきたい」だとか、「こういう制度があったらいいのに」とか、ありますか?
アレックス 先週、高校3年生の子たちがインタビューで商店街をまわっていたんです。高校生が来た時に、僕が逆インタビューをしている感じになっちゃったんですよね、彼らが何を考えているのか興味津々で。
それで十和田の改善したいところってありますか?って聞くと、「うちらの年代も若干の諦めモードに入っちゃってる」って言う。「高校3年生、まだまだこれからなのに何が諦めモードなの?」って聞いてみると、「うちらなんか、自分がやりたいことができないような気がして」って話す子が多かったんです。みんながみんなそういうわけではないと思いますけど、それを変えたいと思っています。レールを敷いてあげることが大事なのかなって。
吉田 僕もそれはすごく重要だなと思っていて。子どもの頃から、世の中にいろんな職業があることを教えてあげたい。僕もこっちに来た時に「デザイナーです」って自己紹介すると、デザイナーってなにするの?って言われた。それはもちろん説明するんですけど、子どもたちは親たちよりも知らないから、子どものうちからライターやカメラマンとかいろんな職業があるんだってことを知ってほしい。
玉川 知る機会がないんですよね、なかなか子どもの時って。身近にあっても奥入瀬渓流には行かないし、アレックスさんや吉田さんのようなひとたちが近くにいるのを知る機会がないんです。高校生が「14-54」に来たっていうのはすごくいいことだなと思いました。
第一中学校の子たちが、奥入瀬に自然学校で来たんですね。子どもたちにそうやって奥入瀬のことを教えてあげられるのってすごくいいなと思っていて。
移住で外のひとを呼ぶっていうのも大事。だけど、いま十和田市や青森県にいる子どもたちがいかに自分の住んでいるところに魅力を感じて、自信を持っていいんだと思えるかのほうがもっと大事で。
故郷の魅力も知らないで諦めて東京に出るしかないっていうのと、この街はこういうひとたちがいてこういう魅力があって、ここにいるとこんなメリットがあるっていうのを知って、選んで進路を決めるのとでは、違うと思うんです。十和田になにかチャンスがあるかもしれないって思えますよね。
伊佐 みなさん自分がやりたいこともあると思うんですけど、子どもたち目線で考えられるんですね。私たちが子どもの未来をつくっていくんだなっていうのは、本当にそう思います。
Iターンのひとがいると、地元のひとが自分の暮らす場所に目を向けるっていうのはあるんですけど、Uターン、この街出身のひとが増えるっていうのは私はとてもいいことだと思う。血筋がここにあるとか、地域の昔を知っているっていうこともすごく価値がある。
子どもたちが外の世界を見に行っても、また戻ってきたいと思うような街が本当に素敵なんだろうなと思います。
伊佐 話を聞いて終わりではなくて、懇親会でたくさん話して、また明日以降も笑いあえるようになったらいいなと思います。このトークを締めさせていただきます。ありがとうございました。
会場 拍手
交流会の様子
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